11月11日(水)、生駒市図書館で、本学と生駒市図書館による共催公開講座を開催し、本学の特別客員教授でもある興福寺・多川俊映寺務老院の講演に、約80名が参加しました。
平成元年から始まった生駒市図書館との本共催公開講座は、本学が取り組む地域連携、貢献事業として地域に深く根付いたものの一つで、今年で32年連続、32回目の開催となります。
例年は250名を定員として実施している本講座も、今回は新型コロナウイルス感染症の感染防止の観点から定員を半数以下に減じての実施とし、ソーシャルディスタンスを考慮した座席の配置や参加いただく方々の体温チェック、体調管理にも配慮しての実施となりました。
講演に先立ち、生駒市の八重史子生涯学習部長、本学の飛世昭裕副学長・図書館長から、「地域から頼りにされる図書館を目指す。Withコロナという困難に立ち向かいながら知の拠点としての取り組みを推進していく」との挨拶がありました。
講演の冒頭で、多川寺務老院は「全国にある薪能(たきぎのう)の催しは300とも500とも言われ、地名を冠した薪能や野外能が活発に行われている。奈良は薪能の発祥の地で「薪御能(たきぎおのう)」と称し、「奈良薪能」とは言わない。芝生の上で舞うので「芝能」と言うこともある。興福寺の薪御能は、春日山の尾根の向こうにある花山で採った神聖な御薪(みかまぎ)を恭しく迎える薪迎えを経て、興福寺南大門跡の「般若(はんにゃ)の芝」で行われる催しで、昔は3月、今は5月に行われている。また多川寺務老院が10数年前に発願して始まった塔影能は10月に行われている。」と話されました。
その後、能は基本的には主人公である「シテ」と脇役である「ワキ」によって構成され、「シテ」の多くは心に鬱屈を抱え成仏していない死者・亡霊、「ワキ」は成仏していない亡霊を慰める役割で僧侶や神職が多く、多川寺務老院が調べた能の現行曲(165曲)では、僧侶75、神職4となっていたこと、「ワキ」は単なる脇役ではなく、本質を引き出す立場として不可欠な存在であること、「ワキ」は「患者に対するセラピスト」という視点から能を観ると良いとのアドバイスがありました。また能は「デッサン」みたいなもので、自分が「シテ」になったつもりで想像をたくましくしてそこに色を加えていく、能を面白くするのは観ている者自身、との興味深い話もありました。
最後に、世界に誇る能が奈良で発祥したこと、また大成者の世阿弥、その父の観阿弥などにより室町時代から江戸時代を経て現代に伝わっていることを奈良に住む人はもっと考えて欲しい。奈良では、飛鳥時代、奈良時代、平安時代は良いが室町時代になると新しいと考えている。古いから良いというだけではなく、受け継がれてきて今があるものを次の時代に引き渡すことが必要。能は室町時代に出来て現在の奈良に伝わっている。古いものとしてだけでなく、新しい目で見つめ直して欲しいと締めくくられました。