2月25日(日)、奈良県立橿原考古学研究所において、学術報告会「金の冠 銀のブーツ 遼代王妃墓の謎を探る」を開催しました。本学術報告会は、文部科学省の平成29年度 私立大学研究ブランディング事業(タイプA【社会展開型】)の採択を受けて実施したものです。
今回の学術報告会でテーマとなった蕭氏貴妃墓は、中国内蒙古自治区で2015年から2016年にかけて発掘された小王力溝遼墓のうちM2墓のことを指します。同墓は、墓室内から発見された墓誌銘の蓋に「故貴妃蕭氏玄堂志銘」と刻まれた銘文から、統和11年(993年)に薨去した遼王朝第6代皇帝聖宗の貴妃(王妃)が埋葬された墓であることが明らかになったものです。中国の考古学研究史上、遼時代の王妃の墓が科学的発掘調査で判明したのは初めてのことであり、国家文物局は小王力溝遼代墓の発掘を2015年度中国十大考古新発現のひとつに選定しています。
本学術報告会では、その発掘調査の全容が中国国外で初めて報告されるということもあり、県内各地から熱心な考古学ファン、約250人が集まりました。
当日は、内蒙古文物研究所の蓋志勇所長が中国国外で初公開となる資料を交えて、調査結果について詳細に解説しました。銀地に金メッキを施し、鳳凰の透かし彫りがデザインされた冠などの豪華な副葬品がスライドに映し出されると、参加者は熱心に見入っていました。続いて、東京理科大学の中井泉教授が、出土品のガラス器の成分分析結果を主題に、ガラスの原産地が、従来考えられていた西アジアや地中海沿岸地域ではなく、中央アジアだった可能性が高いことが定量的に解明されたと報告しました。その後、関西学院大学の福本有寿子研究員からは遼代の染織品について、また、京都大学の古松崇志准教授からは遼代遺跡の碑文と歴史資料についての発表があり、半日をかけて、さまざまな分野の研究者から遼代に関する学術報告が行われました。
内蒙古博物院の学術研究員も務める牟田口章人教授は、特に、今回明らかとなったガラス器の成分分析結果についてふれ、「中央アジアのガラス器が草原ルートを経て東に運ばれていたことが科学分析により示唆されたと言える」と指摘。出土したガラス器には正倉院宝物に似た水差しがあることからも、「正倉院宝物のガラスの伝来ルートの解明にもつながるのではないか」と語り、今後の同分野での研究発展に期待を寄せました。
学術報告会終了後、参加者はきらびやかな副葬品の写真を記録に収めようと、会場外に特別に設けられたパネル展示に詰めかけ、時間の許す限り記念撮影を行っていました。